お坊さん便とお布施の意味

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なんでも売ってるAmazon、話題の「新商品」とは

adb14469538254977121d6fd29a65fc0_s百貨店、スーパー、コンビニ……あらゆる小売業の業態を一変させつつある、それがアメリカからやって来たネット通販Amazonです。1994年にアメリカ・シアトルのガレージの中で無名の若者たちが立ち上げたAmazonのビジネスは、本や雑誌、CDからスタートし、今や「Amazonで買えないものはない」といえるほどの、インターネットショッピングモールになりました。商品の豊富さばかりではなく、実際に購入したユーザーによるレビューや、ユーザーの購入履歴や検索履歴による「オススメ」も非常に画期的で、従来では考えられないような買い物体験をすることができます。

実際、Amazonの検索ウインドウに「墓」と入れて検索すると、墓参用の掃除道具セット、交換用の花立て、携帯用の線香立てなどに加えて墓石そのものもあります。注意書きに「受け渡しにはフォークリフトやクレーン車が必要となります」と書いてありますから、レプリカや模型ではなく本物のようですね。他にも、墓石洗浄サービスなどお墓に関連のある商品はたくさんあるようです。

さて、最近Amazonの新サービス『お坊さん便』が話題になりました。これは、Amazonでチケットを「購入」することで、「ご自宅・お墓などに出向き法事法要(読経・法話)を行う僧侶を手配する」というものです。運営しているのは、格安なお葬式を提供する『シンプルなお葬式』、ご遺骨を海に散骨する『海洋散骨Umie』、宇宙葬を実現する『Sorae』などさまざまな葬祭サービスを提供している株式会社みんれび。お葬式以外でもお仏壇、墓石、供花、永代供養墓など手広い展開を実現しています。

『お坊さん便』のAmazonでのリリースは大きな反響を呼び、かなりのオーダーが入ったといいます。そこで異議を唱えたのが、全日本仏教会です。

全日本仏教会が問題視したのは?

全日本仏教会は、日本の伝統的仏教宗派をとりまとめる存在です。全国のお寺の9割が全日本仏教会に加盟しているということですから、いってみれば日本の仏教界を代表する存在だということでしょう。傘下のお寺の数は75000、全国のお寺の9割にも上るということです。

全日本仏教会は、2015年12月に声明を発表しました。以下、ちょっと引用してみましょう。

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私ども公益財団法人 全日本仏教会は、宗教行為としてあるお布施を営利企業が定額表示することに一貫して反対してきました。お布施は、サービスの対価ではありません。同様に、「戒名」「法名」も商品ではないのです。

申し上げるまでもなく、お布施は、慈悲の心をもって他人に財施などを施すことで「六波羅蜜(ろくはらみつ)」といわれる修行の一つです。なぜ修行なのかというと、見返りを求めない、そういう心を持たないものだからであります。そこに自利利他円満の功徳が成就されるのです。

今回の「Amazonのお坊さん便 僧侶手配サービス」の販売は、まさしく宗教行為をサービスとして商品にしているものであり、およそ諸外国の宗教事情をみても、このようなことを許している国はありません。そういう意味で、世界的な規模で事業を展開する「Amazon」の、宗教に対する姿勢に疑問と失望を禁じ得ません。しっかりと対応していきたいと考えます。
全日本仏教会声明より

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ポイントになるのは、「お布施、戒名、法名はサービスの対価ではなく、修行の一環である」ということです。これはどういうことでしょうか。

そもそもお布施は、「施」(ほどこし)という意味です。これには3つの種類があります。

  • 財施(お金など、財産を施すこと)
  • 法施(仏の教えを説くこと)
  • 無毘施(苦しんでいる人を慰め、その恐怖を取り除くこと)

今日本で「お布施」というと、財施にあたるものを指しますね。日本仏教会のコメントにも、この言葉が出てきています。

わかりにくいのですが、この「ほどこし」は、法事を依頼する側(喪主、施主)がお坊様に対して行うことなのです。ですから「施主=ほどこしをする者」という表現を使います。日本仏教会のコメントで「お布施は、慈悲の心をもって他人に財施などを施すこと」とありますが、ここでいう「他人」がお坊様。この文章の主語が施主・喪主ということになります。

日本仏教会は、「(お布施は)修行の一環である」というコメントをしていますが、これはつまり我々法事をお願いする側が「修行の一環だ」と捉えるべき、ということでしょう。お布施をお坊様にお渡しすることは、その金額を決めるところも含めて修行である。さらに日本仏教会によれば「見返りを求めない、そういう心を持たないもの」ということです。なかなか難しい考え方ですが、少なくとも日本の仏教はそういう約束で成り立っている、ということをお含みおきいただければと思います。

お布施で何が困るのか

pixta_17088313_Sさて、日本仏教会が着目しているのは「お布施を営利企業が定額表示すること」です。この「お坊さん便」では、全国で一律3万5000円となっています。この一律の金額提示が、日本仏教会としては納得できないところです。日本仏教会は、これまでイオンやインターネットサイトがお布施の金額を表記した際に厳しい意見書を送付しています。また、以前問題になった際には仏教者から「これは檀家とお寺の関係を壊してしまうことだ」という意見も出ています。

しかし、この檀家とお寺の関係こそが、現代の日本人にとっては問題ではないでしょうか。もともと遅延がしっかりした地方で代々お墓を守り、檀家として暮らしてきた人々にとってはそれでいいかもしれません。しかし地方から都会に出て何世代かを経た都会人の多くは、どこかのお寺の檀家ではなくなってしまっています。しかし、親戚などの手前がありますから、法事は行わなければいけない。急の不幸の時でも、自分たちなりにお葬式をあげて愛する人を見送りたい。そんな時に、そもそもどこのお寺のどのお坊様にお願いすればいいのかということから悩むことになるわけです。それを「お坊さん便」にお願いできたら、どれだけ安心できるでしょうか。

もちろん、特定のお寺と檀家としてお付き合いしていれば安心です。ですがお墓をどこに建てるかということから迷わなければいけない都会人にとって、檀家としてお付き合いできるお寺に巡りあうのはたいへん難しいことではないでしょうか。さらに永代供養墓や納骨堂など、宗教色の少ないお墓を選ぶ人々も増えてきています。

現代の日本人は徐々に伝統宗教からは離れつつありますが、その一方でお葬式や法事は仏教式で行いたいと考える方々が多いのもまた事実。お正月には神社、ハロウィンやクリスマスはキリスト教式、そしてお葬式は仏式でやりたいという日本人のある意味豊かな宗教観がどこまで続いていくのかはわかりませんが、儀式としてのお葬式・法事と、宗教としてのお葬式・法事の距離もだんだん開いているのではないでしょうか。「お坊さん便」のようなサービスは、そんな現代だからこそ登場したのかもしれません。

お坊さん便とお布施の意味

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なんでも売ってるAmazon、話題の「新商品」とは

adb14469538254977121d6fd29a65fc0_s百貨店、スーパー、コンビニ……あらゆる小売業の業態を一変させつつある、それがアメリカからやって来たネット通販Amazonです。1994年にアメリカ・シアトルのガレージの中で無名の若者たちが立ち上げたAmazonのビジネスは、本や雑誌、CDからスタートし、今や「Amazonで買えないものはない」といえるほどの、インターネットショッピングモールになりました。商品の豊富さばかりではなく、実際に購入したユーザーによるレビューや、ユーザーの購入履歴や検索履歴による「オススメ」も非常に画期的で、従来では考えられないような買い物体験をすることができます。

実際、Amazonの検索ウインドウに「墓」と入れて検索すると、墓参用の掃除道具セット、交換用の花立て、携帯用の線香立てなどに加えて墓石そのものもあります。注意書きに「受け渡しにはフォークリフトやクレーン車が必要となります」と書いてありますから、レプリカや模型ではなく本物のようですね。他にも、墓石洗浄サービスなどお墓に関連のある商品はたくさんあるようです。

さて、最近Amazonの新サービス『お坊さん便』が話題になりました。これは、Amazonでチケットを「購入」することで、「ご自宅・お墓などに出向き法事法要(読経・法話)を行う僧侶を手配する」というものです。運営しているのは、格安なお葬式を提供する『シンプルなお葬式』、ご遺骨を海に散骨する『海洋散骨Umie』、宇宙葬を実現する『Sorae』などさまざまな葬祭サービスを提供している株式会社みんれび。お葬式以外でもお仏壇、墓石、供花、永代供養墓など手広い展開を実現しています。

『お坊さん便』のAmazonでのリリースは大きな反響を呼び、かなりのオーダーが入ったといいます。そこで異議を唱えたのが、全日本仏教会です。

全日本仏教会が問題視したのは?

全日本仏教会は、日本の伝統的仏教宗派をとりまとめる存在です。全国のお寺の9割が全日本仏教会に加盟しているということですから、いってみれば日本の仏教界を代表する存在だということでしょう。傘下のお寺の数は75000、全国のお寺の9割にも上るということです。

全日本仏教会は、2015年12月に声明を発表しました。以下、ちょっと引用してみましょう。

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私ども公益財団法人 全日本仏教会は、宗教行為としてあるお布施を営利企業が定額表示することに一貫して反対してきました。お布施は、サービスの対価ではありません。同様に、「戒名」「法名」も商品ではないのです。

申し上げるまでもなく、お布施は、慈悲の心をもって他人に財施などを施すことで「六波羅蜜(ろくはらみつ)」といわれる修行の一つです。なぜ修行なのかというと、見返りを求めない、そういう心を持たないものだからであります。そこに自利利他円満の功徳が成就されるのです。

今回の「Amazonのお坊さん便 僧侶手配サービス」の販売は、まさしく宗教行為をサービスとして商品にしているものであり、およそ諸外国の宗教事情をみても、このようなことを許している国はありません。そういう意味で、世界的な規模で事業を展開する「Amazon」の、宗教に対する姿勢に疑問と失望を禁じ得ません。しっかりと対応していきたいと考えます。
全日本仏教会声明より

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ポイントになるのは、「お布施、戒名、法名はサービスの対価ではなく、修行の一環である」ということです。これはどういうことでしょうか。

そもそもお布施は、「施」(ほどこし)という意味です。これには3つの種類があります。

  • 財施(お金など、財産を施すこと)
  • 法施(仏の教えを説くこと)
  • 無毘施(苦しんでいる人を慰め、その恐怖を取り除くこと)

今日本で「お布施」というと、財施にあたるものを指しますね。日本仏教会のコメントにも、この言葉が出てきています。

わかりにくいのですが、この「ほどこし」は、法事を依頼する側(喪主、施主)がお坊様に対して行うことなのです。ですから「施主=ほどこしをする者」という表現を使います。日本仏教会のコメントで「お布施は、慈悲の心をもって他人に財施などを施すこと」とありますが、ここでいう「他人」がお坊様。この文章の主語が施主・喪主ということになります。

日本仏教会は、「(お布施は)修行の一環である」というコメントをしていますが、これはつまり我々法事をお願いする側が「修行の一環だ」と捉えるべき、ということでしょう。お布施をお坊様にお渡しすることは、その金額を決めるところも含めて修行である。さらに日本仏教会によれば「見返りを求めない、そういう心を持たないもの」ということです。なかなか難しい考え方ですが、少なくとも日本の仏教はそういう約束で成り立っている、ということをお含みおきいただければと思います。

お布施で何が困るのか

pixta_17088313_Sさて、日本仏教会が着目しているのは「お布施を営利企業が定額表示すること」です。この「お坊さん便」では、全国で一律3万5000円となっています。この一律の金額提示が、日本仏教会としては納得できないところです。日本仏教会は、これまでイオンやインターネットサイトがお布施の金額を表記した際に厳しい意見書を送付しています。また、以前問題になった際には仏教者から「これは檀家とお寺の関係を壊してしまうことだ」という意見も出ています。

しかし、この檀家とお寺の関係こそが、現代の日本人にとっては問題ではないでしょうか。もともと遅延がしっかりした地方で代々お墓を守り、檀家として暮らしてきた人々にとってはそれでいいかもしれません。しかし地方から都会に出て何世代かを経た都会人の多くは、どこかのお寺の檀家ではなくなってしまっています。しかし、親戚などの手前がありますから、法事は行わなければいけない。急の不幸の時でも、自分たちなりにお葬式をあげて愛する人を見送りたい。そんな時に、そもそもどこのお寺のどのお坊様にお願いすればいいのかということから悩むことになるわけです。それを「お坊さん便」にお願いできたら、どれだけ安心できるでしょうか。

もちろん、特定のお寺と檀家としてお付き合いしていれば安心です。ですがお墓をどこに建てるかということから迷わなければいけない都会人にとって、檀家としてお付き合いできるお寺に巡りあうのはたいへん難しいことではないでしょうか。さらに永代供養墓や納骨堂など、宗教色の少ないお墓を選ぶ人々も増えてきています。

現代の日本人は徐々に伝統宗教からは離れつつありますが、その一方でお葬式や法事は仏教式で行いたいと考える方々が多いのもまた事実。お正月には神社、ハロウィンやクリスマスはキリスト教式、そしてお葬式は仏式でやりたいという日本人のある意味豊かな宗教観がどこまで続いていくのかはわかりませんが、儀式としてのお葬式・法事と、宗教としてのお葬式・法事の距離もだんだん開いているのではないでしょうか。「お坊さん便」のようなサービスは、そんな現代だからこそ登場したのかもしれません。