アメリカの霊園事情②エンバーミングのについて

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アメリカはキリスト教国家であり、教義として死者の復活が信じられています。そのため長年土葬が埋葬方の主軸となっていましたが、1965年にはカトリック教会が公的に火葬を許可しており、近年は火葬を選択するアメリカ人が多いようです。
火葬を選択する主な理由は、費用です。土葬の場合、遺体の防腐処理を行うエンバーミングや、遺体を安置する棺が必要であることなどがあり、必然的に費用が高くなります。棺が1000ドル(約11万円)であるのに対し、火葬で用いられる骨壷は数百ドル(100ドルが約1万1000円)しかかからないという点からも、その差は明らかです。
とは言え、長い間土葬が主流であったこともあり、その習慣はまだ根強く残っています。アメリカの土葬に関する技術は非常に優れており、中でもエンバーミング技術の高さは世界のお手本です。もともとフューネラル・ビジネスをいち早く体系化できたこともあり、最先端の技術を有しています。
詳しく見ていきましょう。

エンバーミングについて 〜由来や目的

エンバーミング(embalming)は日本語に訳しにくいのですが、「遺体衛生保全」「死体防腐処理」などと呼ばれています。亡くなった人の姿をきれいにとどめておくための保存技術で、病理学・解剖学・微生物学・公衆衛生学といった多岐にわたる医療知識と、非常に高度な技術を要するため、医療従事者や、エンバーマーと呼ばれる専門技術者でなければ処理できません。
大元は17〜19世紀にイタリア・フランスの科学者がホルマリン(高い防腐効果をもつ薬物。劇薬に指定されています)を発見したことによりますが、実際的にこの技術が生まれるきっかけとなったのは、アメリカ南北戦争(1861〜1865年)だと言われています。多くの死者が出る中で、亡くなった兵士を出来るだけ生前の姿に近い状態で家族の元に送り届けるための技術として研究され始めました。
エンバーミングは、概ね*以下の手順で行われます。

①傷の確認を行うとともに、殺菌処理などを行う
②口の縫合などを行い、口を閉じさせる
③血液を抜き取り、防腐液などを注入する
④不要な水分を抜くためにご遺体をもみほぐす
⑤体液を吸引する
⑥内臓に防腐液を入れる
⑦傷口を縫う
⑧体を洗いあげ、乾かす
⑨体から生じる液を留めるための処理を行う
⑩故人の好きだった洋服、あるいはご家族が希望する服に着替えさせる
⑪ご家族の希望、あるいは自然に見えるような化粧をして、生前のお姿に近づける

エンバーミングを行う目的はふたつあります。
ひとつは、消毒・防腐処置をしっかりおこなうことで、感染症を防ぐことができることです。特に数世紀前の欧米では、棺もなく直接遺体を土に埋めており、教会墓地から腐敗によるガスが発生していたこともあったとか!
そしてもうひとつは、上記の効果により生前の姿に近いご遺体の姿に修復することができ、遺族がゆったりとした気持ちで故人とお別れすることができることです。しっかりしたエンバーミングの処置を施せば、最大で2週間遺体を保存することが可能です。故人が亡くなってしまった時、必ずしも遺族の近くにいられるとは限りません。離れた場所で亡くなってしまった場合、遺体搬送に時間がかかってしまうことが多く、その間に遺体が損壊・腐敗してしまうこともあります。ですがエンバーミングによって腐敗の進みが抑えられれば、大きく変わることなく遺族の元にご遺体を送り届けることが可能です。また、長い闘病生活や不慮の事故などで変わってしまった面影を生前の穏やかな表情に復元でき、遺族の悲しみを和らげる効果もあります。これは、遺族のメンタルケアに非常に大きく影響します。
ちなみに、エンバーミングを施したあとはドライアイスは不要になります。ご遺体を冷たくすることがない点も、エンバーミングが好意的に捉えられている一因です。

日本におけるエンバーミングの認知度

火葬実施率99%と言われる日本で、エンバーミングの知名度はどのくらい高いのでしょうか?
実は、随分前に注目されたことがあります。1995年1月17日に起こった阪神・淡路大震災です。震災によって大きく損壊してしまったご遺体を、プロのエンバーマーが所属している一般社団法人の団体が修復に当たったのです。エンバーミングは傷口の縫合技術も優れていますが、何より注目すべきはお顔を美しい状態に修復できるという技術です。防腐剤を毛細血管までしっかり浸透させて組織を固定し、面影を穏やかにし、場合によってはエンゼルメイクを施します。これにより、身元確認を行う遺族の心的ショックを和らげることが可能になりました。
また、最近ではドラマにもエンバーミングが登場しています。2018年多くの賞を受賞し話題となった法医学ドラマ「アンナチュラル」の最終話です。主人公の一人が恋人を殺した連続殺人犯を探し続け、ついに追い詰めますが証拠不十分の状況となってしまいますが、恋人の遺体が家族の暮らすアメリカでエンバーミングされて埋葬されていたことがわかり、急遽遺体を日本に運び再解剖を行い、犯人のDNAを採取することに成功し裁判で追い詰めることに成功するという非常にドラマチックなシーンです。インパクトが非常に強かったこのシーンでエンバーミングを知った方も多かったのではないかと思います。
今では日本でも、エンバーミングを希望する人々が増えていると言います。必ずしも必要ではない火葬の文化圏だからこそ、お別れの時をしっかり故人と共有したいという遺族の思いが強いのかもしれません。

エンバーミングのメリット・デメリット 〜選択肢のヒントとして

さて、エンバーミングについて大まかに説明してきましたが、ここで改めてメリットとデメリットをまとめてみます。

【メリット】
・感染症を防止できる
・ドライアイスを用いることがないため、ご遺体を冷たくしてしまうという心的負担がない
・生前の姿に近い状態で、ゆっくり最後のお別れができる
・長期保全が可能なため、余裕を持って葬儀の日程を組むことができる

【デメリット】
・日本ではまだメジャーな手段ではないため、しっかりと情報収集をする必要がある
・費用がかかる

土葬が主流の欧米諸国ではなくてはならないエンバーミング技術ですが、災害大国の日本でも非常に必要とされている技術であると言えます。
大切な故人との最後のお別れを悔いのないものにするために、何より自分自身の気持ちを癒やすために、日本だからこそ選択肢として求められている技術であるとも言えるのではないでしょうか?
故人だけでなく、遺族のためのケアが可能なエンバーミング。是非、埋葬方法のいち手段として考えてみてください。

※お墓・葬儀・終活関連情報サイト「ライフドット」より引用

アメリカの霊園事情②エンバーミングのについて

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アメリカはキリスト教国家であり、教義として死者の復活が信じられています。そのため長年土葬が埋葬方の主軸となっていましたが、1965年にはカトリック教会が公的に火葬を許可しており、近年は火葬を選択するアメリカ人が多いようです。
火葬を選択する主な理由は、費用です。土葬の場合、遺体の防腐処理を行うエンバーミングや、遺体を安置する棺が必要であることなどがあり、必然的に費用が高くなります。棺が1000ドル(約11万円)であるのに対し、火葬で用いられる骨壷は数百ドル(100ドルが約1万1000円)しかかからないという点からも、その差は明らかです。
とは言え、長い間土葬が主流であったこともあり、その習慣はまだ根強く残っています。アメリカの土葬に関する技術は非常に優れており、中でもエンバーミング技術の高さは世界のお手本です。もともとフューネラル・ビジネスをいち早く体系化できたこともあり、最先端の技術を有しています。
詳しく見ていきましょう。

エンバーミングについて 〜由来や目的

エンバーミング(embalming)は日本語に訳しにくいのですが、「遺体衛生保全」「死体防腐処理」などと呼ばれています。亡くなった人の姿をきれいにとどめておくための保存技術で、病理学・解剖学・微生物学・公衆衛生学といった多岐にわたる医療知識と、非常に高度な技術を要するため、医療従事者や、エンバーマーと呼ばれる専門技術者でなければ処理できません。
大元は17〜19世紀にイタリア・フランスの科学者がホルマリン(高い防腐効果をもつ薬物。劇薬に指定されています)を発見したことによりますが、実際的にこの技術が生まれるきっかけとなったのは、アメリカ南北戦争(1861〜1865年)だと言われています。多くの死者が出る中で、亡くなった兵士を出来るだけ生前の姿に近い状態で家族の元に送り届けるための技術として研究され始めました。
エンバーミングは、概ね*以下の手順で行われます。

①傷の確認を行うとともに、殺菌処理などを行う
②口の縫合などを行い、口を閉じさせる
③血液を抜き取り、防腐液などを注入する
④不要な水分を抜くためにご遺体をもみほぐす
⑤体液を吸引する
⑥内臓に防腐液を入れる
⑦傷口を縫う
⑧体を洗いあげ、乾かす
⑨体から生じる液を留めるための処理を行う
⑩故人の好きだった洋服、あるいはご家族が希望する服に着替えさせる
⑪ご家族の希望、あるいは自然に見えるような化粧をして、生前のお姿に近づける

エンバーミングを行う目的はふたつあります。
ひとつは、消毒・防腐処置をしっかりおこなうことで、感染症を防ぐことができることです。特に数世紀前の欧米では、棺もなく直接遺体を土に埋めており、教会墓地から腐敗によるガスが発生していたこともあったとか!
そしてもうひとつは、上記の効果により生前の姿に近いご遺体の姿に修復することができ、遺族がゆったりとした気持ちで故人とお別れすることができることです。しっかりしたエンバーミングの処置を施せば、最大で2週間遺体を保存することが可能です。故人が亡くなってしまった時、必ずしも遺族の近くにいられるとは限りません。離れた場所で亡くなってしまった場合、遺体搬送に時間がかかってしまうことが多く、その間に遺体が損壊・腐敗してしまうこともあります。ですがエンバーミングによって腐敗の進みが抑えられれば、大きく変わることなく遺族の元にご遺体を送り届けることが可能です。また、長い闘病生活や不慮の事故などで変わってしまった面影を生前の穏やかな表情に復元でき、遺族の悲しみを和らげる効果もあります。これは、遺族のメンタルケアに非常に大きく影響します。
ちなみに、エンバーミングを施したあとはドライアイスは不要になります。ご遺体を冷たくすることがない点も、エンバーミングが好意的に捉えられている一因です。

日本におけるエンバーミングの認知度

火葬実施率99%と言われる日本で、エンバーミングの知名度はどのくらい高いのでしょうか?
実は、随分前に注目されたことがあります。1995年1月17日に起こった阪神・淡路大震災です。震災によって大きく損壊してしまったご遺体を、プロのエンバーマーが所属している一般社団法人の団体が修復に当たったのです。エンバーミングは傷口の縫合技術も優れていますが、何より注目すべきはお顔を美しい状態に修復できるという技術です。防腐剤を毛細血管までしっかり浸透させて組織を固定し、面影を穏やかにし、場合によってはエンゼルメイクを施します。これにより、身元確認を行う遺族の心的ショックを和らげることが可能になりました。
また、最近ではドラマにもエンバーミングが登場しています。2018年多くの賞を受賞し話題となった法医学ドラマ「アンナチュラル」の最終話です。主人公の一人が恋人を殺した連続殺人犯を探し続け、ついに追い詰めますが証拠不十分の状況となってしまいますが、恋人の遺体が家族の暮らすアメリカでエンバーミングされて埋葬されていたことがわかり、急遽遺体を日本に運び再解剖を行い、犯人のDNAを採取することに成功し裁判で追い詰めることに成功するという非常にドラマチックなシーンです。インパクトが非常に強かったこのシーンでエンバーミングを知った方も多かったのではないかと思います。
今では日本でも、エンバーミングを希望する人々が増えていると言います。必ずしも必要ではない火葬の文化圏だからこそ、お別れの時をしっかり故人と共有したいという遺族の思いが強いのかもしれません。

エンバーミングのメリット・デメリット 〜選択肢のヒントとして

さて、エンバーミングについて大まかに説明してきましたが、ここで改めてメリットとデメリットをまとめてみます。

【メリット】
・感染症を防止できる
・ドライアイスを用いることがないため、ご遺体を冷たくしてしまうという心的負担がない
・生前の姿に近い状態で、ゆっくり最後のお別れができる
・長期保全が可能なため、余裕を持って葬儀の日程を組むことができる

【デメリット】
・日本ではまだメジャーな手段ではないため、しっかりと情報収集をする必要がある
・費用がかかる

土葬が主流の欧米諸国ではなくてはならないエンバーミング技術ですが、災害大国の日本でも非常に必要とされている技術であると言えます。
大切な故人との最後のお別れを悔いのないものにするために、何より自分自身の気持ちを癒やすために、日本だからこそ選択肢として求められている技術であるとも言えるのではないでしょうか?
故人だけでなく、遺族のためのケアが可能なエンバーミング。是非、埋葬方法のいち手段として考えてみてください。

※お墓・葬儀・終活関連情報サイト「ライフドット」より引用