アメリカの霊園事情③火葬の在り方と墓石について
近年火葬の需要が著しいアメリカですが、やはり宗教観や需要の過程が日本と根本的に異なるためか、火葬の仕方も日本のそれとは大きく違っています。
また、墓石に彫刻する文字や、いわゆる「お墓参り」の仕方も日本とは大きく異なっており、こうした点にキリスト教という宗教観が色濃く影響しているのがわかります。
アメリカと日本との埋葬に関する価値観の違いを説明し「アメリカの霊園事情」シリーズを終えたいと思います。
火葬の需要と日本との実施形態の違い
コストの面で火葬を選択するアメリカ人が増えてきていると前回の記事でお伝えしましたが、訪問客が客死した場合も火葬が実施されます。そのため実施率が高いというデータがあるようです(実際のところ、アメリカ国内ではまだ土葬を選ぶ方が多いようです)。
また、近年は土葬以外のニーズも目立ってきているようで、散骨という埋葬方法を選ぶ場合は当然火葬が必須となります。
ではアメリカで行われる火葬は、日本で行われる火葬とどのような違いがあるのでしょうか?
まず、現在の日本で最もよく行われていると思われる火葬の形態から見ていきます。日本ではご遺体を焼いた後、お骨がほぼ人体模型のような形をとどめて遺族の前に据えられます。そして骨格に沿うように各部位を骨壷に納め(納骨)、その骨壷をお墓の地下部分のカロートに安置します。
つまり、日本の火葬は骨を残す必要があるため、焼却の温度は800度とされています。また、人体が燃え尽きるまで800度程度の火を維持するには、薪や石炭・石油などの燃料を十分に備えていなければならず、施設も大掛かりになります。
では、アメリカの火葬はどうでしょう。実は、アメリカで使われる焼却炉は超高温レベルのもので、日本の火葬のような形で人骨を残すことができません。しかも、焼却されたお骨は電気的な手段で粉砕されてしまうため、残るのは「遺骨」というよりは「遺灰」です。日本とは大きく異なり、驚くほどです。
アメリカの火葬は、言ってみれば非常にコンパクトです。そもそもアメリカで火葬が受け入れられるようになった要因は、コストの他に土地不足の問題も絡んでいます。火葬のような大規模な機器が不要な分、土に還るまで一定の時間とスペースを要します。墓地はローテーションしながら使用されており、もう大丈夫だろうと掘り返したらまだ前に埋葬していた人骨が残っていた…という非常に恐ろしい話もあるとか。
近年のアメリカでは、都会では火葬、田舎では土葬というように選択傾向が別れているようです。
キリスト教観の反映 〜「R.I.P」の意味と祈りの重要性
欧米の映画の中で墓石が映ると、「R.I.P」という文字が刻まれているのを見ることが多いかと思います。これは何を意味しているのでしょうか?
「R.I.P」とは、ラテン語で「安らかに眠れ」を意味する「Requiescat in Pace」の頭文字を採ったものです。「レクゥィエスカト・イン・パーケ」と読み、英語圏の社会で誰かが亡くなった時のお悔やみの言葉として非常によく使われる言葉です。新聞紙上に訃報が出る場合、その人の名前の後に「R.I.P」をつけることが多いようです。
また、アメリカでは、特別にお墓参りをする習慣がないようです。常に心の中で祈っているからということで、こればかりは宗教観の違いとしか言いようがありません。5月の最終月曜日がMemorial Dayという「戦没将兵追悼記念日」に定められているのですが、日本のようなお盆という期間はありません。
いわゆる「お盆」に相当する行事はハロウィンです。今でこそ日本でも盛り上がるようになりましたが、ほとんど換骨堕胎の状態で「仮装」「かぼちゃ」「trik or treat」の要素だけが残るようになってしまいましたが、元々は伝統的なケルトの宗教行事でした。古代ケルトでは10月31日が一年の終わりとされ、この世とあの世の境がなくなり霊(良い霊も悪い霊も)がやってくる日とされていたのです。ちなみに語源は、翌日11月1日が万聖節(キリスト教の聖人および殉教者のために祈るカトリック独自の行事)で、万聖節をHallowmasといい、その前夜なのでeveが付け加えられ、語尾がなまってHalloweenとなったといわれています。
未来の葬儀「グリーン葬」 〜環境と共生していく葬儀の在り方
火葬にすることにより、アメリカの人々の間の埋葬観念も驚くほど変化しています。故人が生前気に入っていた場所に散骨したり、マントルピースに骨壷を置いたりする人もいれば、遺骨を溶かし込んで作った特殊な薬液で仕上げた陶磁器やアクセサリーなどを作ってもらうサービスも出てきており、アメリカのフューネラル・ビジネスの選択肢の幅の広さには驚かされます。ですが、この辺りはまだまだ行政サイドが黙認しているから成り立っている側面が強いようで、極めて曖昧なグレーゾーンと言った感じのようです。
こうした動きの中、近年のアメリカではグリーン葬(Green Burial)という新しい形態の埋葬方法が人気を博しているそうです。遺体を天然の防腐剤で処理し、微生物の作用で自然に分解される材料に包んで土の中に葬るという方法です。土葬の観念を崩すことなく、しかし自然に配慮した埋葬方法であることが共感を呼び、需要は確実に増えているとのこと。
人間は、誰しも土に還るもの。いずれはどの国も宗教的観念を超越し、地球と共生する埋葬方法を選択するようになるのかもしれません。
近年火葬の需要が著しいアメリカですが、やはり宗教観や需要の過程が日本と根本的に異なるためか、火葬の仕方も日本のそれとは大きく違っています。
また、墓石に彫刻する文字や、いわゆる「お墓参り」の仕方も日本とは大きく異なっており、こうした点にキリスト教という宗教観が色濃く影響しているのがわかります。
アメリカと日本との埋葬に関する価値観の違いを説明し「アメリカの霊園事情」シリーズを終えたいと思います。
火葬の需要と日本との実施形態の違い
コストの面で火葬を選択するアメリカ人が増えてきていると前回の記事でお伝えしましたが、訪問客が客死した場合も火葬が実施されます。そのため実施率が高いというデータがあるようです(実際のところ、アメリカ国内ではまだ土葬を選ぶ方が多いようです)。
また、近年は土葬以外のニーズも目立ってきているようで、散骨という埋葬方法を選ぶ場合は当然火葬が必須となります。
ではアメリカで行われる火葬は、日本で行われる火葬とどのような違いがあるのでしょうか?
まず、現在の日本で最もよく行われていると思われる火葬の形態から見ていきます。日本ではご遺体を焼いた後、お骨がほぼ人体模型のような形をとどめて遺族の前に据えられます。そして骨格に沿うように各部位を骨壷に納め(納骨)、その骨壷をお墓の地下部分のカロートに安置します。
つまり、日本の火葬は骨を残す必要があるため、焼却の温度は800度とされています。また、人体が燃え尽きるまで800度程度の火を維持するには、薪や石炭・石油などの燃料を十分に備えていなければならず、施設も大掛かりになります。
では、アメリカの火葬はどうでしょう。実は、アメリカで使われる焼却炉は超高温レベルのもので、日本の火葬のような形で人骨を残すことができません。しかも、焼却されたお骨は電気的な手段で粉砕されてしまうため、残るのは「遺骨」というよりは「遺灰」です。日本とは大きく異なり、驚くほどです。
アメリカの火葬は、言ってみれば非常にコンパクトです。そもそもアメリカで火葬が受け入れられるようになった要因は、コストの他に土地不足の問題も絡んでいます。火葬のような大規模な機器が不要な分、土に還るまで一定の時間とスペースを要します。墓地はローテーションしながら使用されており、もう大丈夫だろうと掘り返したらまだ前に埋葬していた人骨が残っていた…という非常に恐ろしい話もあるとか。
近年のアメリカでは、都会では火葬、田舎では土葬というように選択傾向が別れているようです。
キリスト教観の反映 〜「R.I.P」の意味と祈りの重要性
欧米の映画の中で墓石が映ると、「R.I.P」という文字が刻まれているのを見ることが多いかと思います。これは何を意味しているのでしょうか?
「R.I.P」とは、ラテン語で「安らかに眠れ」を意味する「Requiescat in Pace」の頭文字を採ったものです。「レクゥィエスカト・イン・パーケ」と読み、英語圏の社会で誰かが亡くなった時のお悔やみの言葉として非常によく使われる言葉です。新聞紙上に訃報が出る場合、その人の名前の後に「R.I.P」をつけることが多いようです。
また、アメリカでは、特別にお墓参りをする習慣がないようです。常に心の中で祈っているからということで、こればかりは宗教観の違いとしか言いようがありません。5月の最終月曜日がMemorial Dayという「戦没将兵追悼記念日」に定められているのですが、日本のようなお盆という期間はありません。
いわゆる「お盆」に相当する行事はハロウィンです。今でこそ日本でも盛り上がるようになりましたが、ほとんど換骨堕胎の状態で「仮装」「かぼちゃ」「trik or treat」の要素だけが残るようになってしまいましたが、元々は伝統的なケルトの宗教行事でした。古代ケルトでは10月31日が一年の終わりとされ、この世とあの世の境がなくなり霊(良い霊も悪い霊も)がやってくる日とされていたのです。ちなみに語源は、翌日11月1日が万聖節(キリスト教の聖人および殉教者のために祈るカトリック独自の行事)で、万聖節をHallowmasといい、その前夜なのでeveが付け加えられ、語尾がなまってHalloweenとなったといわれています。
未来の葬儀「グリーン葬」 〜環境と共生していく葬儀の在り方
火葬にすることにより、アメリカの人々の間の埋葬観念も驚くほど変化しています。故人が生前気に入っていた場所に散骨したり、マントルピースに骨壷を置いたりする人もいれば、遺骨を溶かし込んで作った特殊な薬液で仕上げた陶磁器やアクセサリーなどを作ってもらうサービスも出てきており、アメリカのフューネラル・ビジネスの選択肢の幅の広さには驚かされます。ですが、この辺りはまだまだ行政サイドが黙認しているから成り立っている側面が強いようで、極めて曖昧なグレーゾーンと言った感じのようです。
こうした動きの中、近年のアメリカではグリーン葬(Green Burial)という新しい形態の埋葬方法が人気を博しているそうです。遺体を天然の防腐剤で処理し、微生物の作用で自然に分解される材料に包んで土の中に葬るという方法です。土葬の観念を崩すことなく、しかし自然に配慮した埋葬方法であることが共感を呼び、需要は確実に増えているとのこと。
人間は、誰しも土に還るもの。いずれはどの国も宗教的観念を超越し、地球と共生する埋葬方法を選択するようになるのかもしれません。