墓石の彫刻文字

投稿日:

お墓にも表札が必要です

a0006_000695どんなにきれいな霊園や墓地を手に入れて、立派な墓石を建てても、それだけではお墓とは言えません。どこの誰のお墓なのかをはっきり示すために、墓石(竿石)には文字を刻みます。

まず、基本的なところをおさらいしておきましょう。墓石に刻まれる文字は、伝統的な和型三段墓の場合、以下のようになります(宗派などによって異なります)。

  • 家名(「○○家先祖代々之墓」など)
  • 埋葬されている方の戒名または法名、俗名、没年月日、享年など
    (これらは、墓石ではなく「墓誌」に刻むこともあります)
  • お墓を建立した日付(年月日)、建立者の名前
    (地方によって風習は異なりますが、建立者が存命中の場合は朱色の文字にします。建立者が亡くなられた場合は文字を黒で塗ります)
  • 名号、題目、経文などの仏語(「南無阿弥陀仏」「南無阿弥法蓮華経」など)

上記に加えて、梵字を入れる場合があります。梵字とは、仏教が生まれたインドの古代言語・サンスクリット語の文字です。漢字にも、タイ語など東南アジア圏の文字にも似ていますが、現在一般的に使われている言語・文字ではありません。しかし仏教の世界では今も現役で、さまざまな仏様を一文字であらわすことができます。天台宗、真言宗などの密教系の宗派では、大日如来をあらす梵字や阿弥陀如来をあらわす梵字を刻みます。浄土真宗では梵字は刻みません。曹洞宗などの禅宗では、「円相」とよばれる円を刻みます。特に寺院墓地にお墓を建てることを考えている場合は、お寺の宗派との兼ね合いもありますのでよく考えましょう。
他によく見られるのが、家紋です。もともと、皇族や公家、武家が家柄や血統をあらわすために使われていましたが、明治維新後に江戸時代までの身分制度が崩れると、誰でも家紋を使えるようになりました。お墓では、竿石の上部のほか、水鉢、香炉、花立、墓誌などの付属品に刻まれます。花立や門柱など2つで一対になるものには、両方に刻みます。

神道のお墓の場合は、竿石の正面に「○○家奥津城」と刻みます。奥津城とは、日本の神話の中で、神様が眠るところ。転じて、神道式のお墓のことを指す言葉です。
右側面に「○○家先祖代々」、その下に埋葬されている人の霊名(戒名、法名にあたります)を彫ります。神道の霊名は、俗名の下に「○○之霊」「○○命(みこと)」「○○霊位」「○○大人」(男性の場合)「○○刀自」(女性の場合)という称号をつけます。

形が自由なら、文言も自由。洋型墓石には何を刻む?

上で触れた和型三段墓は、歴史のあるものですから何を刻むのかはおおよそ決まっています。一方、最近増えている洋型墓石の場合は、形も自由ですし刻む言葉も自由。それだけに、建立する場合のセンスが問われます。
洋型墓石には、詩や俳句、小説の一節、「愛」「希望」「やすらぎ」など好きな言葉を刻んであるお墓をよく見かけます。変わったものでは楽譜と歌詞が刻まれたものなどもありました。何を刻んでもいいのですが、ひとつご注意を。そのお墓に埋葬される方がおひとりならば、その方のイメージに合わせた言葉でいいでしょう。しかし、そのお墓を家族の墓として代々継承していくとすると、個性を重視しすぎた言葉を刻んでしまうと、将来の家族が困ってしまうこともあるでしょう。ちょっと脱線しますが、最近話題になっている子供の名づけでも、同じようなことが言えます。今、「こういう名前がいいな」とつけてしまうと、その子が大人や老人になった時にどうするのか……ということです。家族墓は、世代を越えて未来へと引き継いでいくもの。刻む言葉は、よく考えて決めましょう。

霊園を見学すると気づくと思いますが、最近はただ「○○家之墓」のようにひと家族だけのお墓ではなく、「○○家 △△家」と二家族分の名前が書かれているお墓もあります。これを「両家墓」といいます。この形であれば、結婚した夫婦を中心にその上下の世代までひとつのお墓に入れるわけです。少子化、核家族化が進む現代ならではのお墓……と思われるでしょうが、実はここに落とし穴があります。子供世代が結婚してさらに苗字が変わった場合、つまり「○○家」の娘さんが「□□家」に嫁いだ場合は、「○○家 △△家」のお墓に入るのはちょっと不自然になってしまうでしょう。そこで、最近では両家墓を建立しても、家の名前を刻まないケースも増えています。では竿石になんと刻むかといえば、「やすらかに」など、家や個人を特定しないような言葉です。これなら、子孫がどんな結婚をしてどんな名字になろうと問題はありませんね。

ここまで「洋型のお墓に刻む文字には宗教宗派の規定がない」ということで話を進めてきましたが、「じゃあ、キリスト教のお墓はどうなの?」と思われる方もいるでしょう。
キリスト教のお墓には、刻む文字の規定はありません。そもそもキリスト教の場合、「故人を供養する」という考え方はないのです。ではお墓は何のためにあるのかというと、故人のことを思い出し、なつかしみ、神様に感謝するための記念碑としてあるのです。ですから、仏教のようなしきたりはありません。キリスト教のお墓は家族墓ではなく個人墓なのが特徴です。また、墓地は芝生で覆われていた方がよいということですが、これは日本の一般の霊園では難しいでしょう。
墓石に刻む墓碑銘には、故人の名前と生没年が入ります。仏教の戒名のようなものはありませんが、カトリックで洗礼を受けている場合は洗礼名を入れる場合もあります。故人が好きだった聖句(聖書の一節)を刻む例もありますね。

刻む文字の書体には規定なし、読みやすいものにしよう

ここまでは、墓石に刻む文字の内容について触れてきました。では、文字の形、つまり書体はどうでしょうか。
結論から言えば、書体には決まりはありません。よく使われるのは、楷書体、行書体、隷書体です。これらは長い歴史を持つ漢字の書体で、新聞や本をはじめ、街の看板やポスターからテレビ、インターネットに至るまで、さまざまな場所で目にすることができます。日本で一般的な学校教育を受けていれば、読みにくい書体ではありません。同じく伝統的な書体に草書体がありますが、これはかなり崩した文字になるので、きちんと読みこなすのは難しいですね。どのような書体にするか、石材店のカタログや実際の墓石を見て決めましょう。また、このような一般的な書体ではなく、文字を書き下ろしてもらえる場合もあります。別料金になる場合が多いですが、これも石材店に相談しましょう
墓石で使われる特別な書体としては、日蓮宗の「ひげ文字」があります。これは、日蓮宗の開祖である日蓮上人が創った独特の筆法です。漢字の「はらい」を長く左右に伸ばすのが特徴で、この「はらい」が伸びている様子が八の字ひげのように見えるので、この名前がつけられました。

また、漢字は現在使われている新字体ではなく、旧字体をつかうほうがよいとされています。浅→淺、増→增、曽→曾など、普段は意識しなくてもさまざまな漢字に旧字体があります。この機会に調べてみるのもいいでしょう。
名前にだけ使う異体字(「高」という字の上半分が違う「ハシゴ高」や、「ワタナベ」さんの「ナベ」の字が「邊」なのか「渡邉」なのか、など)にも注意が必要です。なにしろ石に刻んでしまうとやり直しができませんから、細心の注意を払いましょう。

墓石の彫刻文字

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お墓にも表札が必要です

a0006_000695どんなにきれいな霊園や墓地を手に入れて、立派な墓石を建てても、それだけではお墓とは言えません。どこの誰のお墓なのかをはっきり示すために、墓石(竿石)には文字を刻みます。

まず、基本的なところをおさらいしておきましょう。墓石に刻まれる文字は、伝統的な和型三段墓の場合、以下のようになります(宗派などによって異なります)。

  • 家名(「○○家先祖代々之墓」など)
  • 埋葬されている方の戒名または法名、俗名、没年月日、享年など
    (これらは、墓石ではなく「墓誌」に刻むこともあります)
  • お墓を建立した日付(年月日)、建立者の名前
    (地方によって風習は異なりますが、建立者が存命中の場合は朱色の文字にします。建立者が亡くなられた場合は文字を黒で塗ります)
  • 名号、題目、経文などの仏語(「南無阿弥陀仏」「南無阿弥法蓮華経」など)

上記に加えて、梵字を入れる場合があります。梵字とは、仏教が生まれたインドの古代言語・サンスクリット語の文字です。漢字にも、タイ語など東南アジア圏の文字にも似ていますが、現在一般的に使われている言語・文字ではありません。しかし仏教の世界では今も現役で、さまざまな仏様を一文字であらわすことができます。天台宗、真言宗などの密教系の宗派では、大日如来をあらす梵字や阿弥陀如来をあらわす梵字を刻みます。浄土真宗では梵字は刻みません。曹洞宗などの禅宗では、「円相」とよばれる円を刻みます。特に寺院墓地にお墓を建てることを考えている場合は、お寺の宗派との兼ね合いもありますのでよく考えましょう。
他によく見られるのが、家紋です。もともと、皇族や公家、武家が家柄や血統をあらわすために使われていましたが、明治維新後に江戸時代までの身分制度が崩れると、誰でも家紋を使えるようになりました。お墓では、竿石の上部のほか、水鉢、香炉、花立、墓誌などの付属品に刻まれます。花立や門柱など2つで一対になるものには、両方に刻みます。

神道のお墓の場合は、竿石の正面に「○○家奥津城」と刻みます。奥津城とは、日本の神話の中で、神様が眠るところ。転じて、神道式のお墓のことを指す言葉です。
右側面に「○○家先祖代々」、その下に埋葬されている人の霊名(戒名、法名にあたります)を彫ります。神道の霊名は、俗名の下に「○○之霊」「○○命(みこと)」「○○霊位」「○○大人」(男性の場合)「○○刀自」(女性の場合)という称号をつけます。

形が自由なら、文言も自由。洋型墓石には何を刻む?

上で触れた和型三段墓は、歴史のあるものですから何を刻むのかはおおよそ決まっています。一方、最近増えている洋型墓石の場合は、形も自由ですし刻む言葉も自由。それだけに、建立する場合のセンスが問われます。
洋型墓石には、詩や俳句、小説の一節、「愛」「希望」「やすらぎ」など好きな言葉を刻んであるお墓をよく見かけます。変わったものでは楽譜と歌詞が刻まれたものなどもありました。何を刻んでもいいのですが、ひとつご注意を。そのお墓に埋葬される方がおひとりならば、その方のイメージに合わせた言葉でいいでしょう。しかし、そのお墓を家族の墓として代々継承していくとすると、個性を重視しすぎた言葉を刻んでしまうと、将来の家族が困ってしまうこともあるでしょう。ちょっと脱線しますが、最近話題になっている子供の名づけでも、同じようなことが言えます。今、「こういう名前がいいな」とつけてしまうと、その子が大人や老人になった時にどうするのか……ということです。家族墓は、世代を越えて未来へと引き継いでいくもの。刻む言葉は、よく考えて決めましょう。

霊園を見学すると気づくと思いますが、最近はただ「○○家之墓」のようにひと家族だけのお墓ではなく、「○○家 △△家」と二家族分の名前が書かれているお墓もあります。これを「両家墓」といいます。この形であれば、結婚した夫婦を中心にその上下の世代までひとつのお墓に入れるわけです。少子化、核家族化が進む現代ならではのお墓……と思われるでしょうが、実はここに落とし穴があります。子供世代が結婚してさらに苗字が変わった場合、つまり「○○家」の娘さんが「□□家」に嫁いだ場合は、「○○家 △△家」のお墓に入るのはちょっと不自然になってしまうでしょう。そこで、最近では両家墓を建立しても、家の名前を刻まないケースも増えています。では竿石になんと刻むかといえば、「やすらかに」など、家や個人を特定しないような言葉です。これなら、子孫がどんな結婚をしてどんな名字になろうと問題はありませんね。

ここまで「洋型のお墓に刻む文字には宗教宗派の規定がない」ということで話を進めてきましたが、「じゃあ、キリスト教のお墓はどうなの?」と思われる方もいるでしょう。
キリスト教のお墓には、刻む文字の規定はありません。そもそもキリスト教の場合、「故人を供養する」という考え方はないのです。ではお墓は何のためにあるのかというと、故人のことを思い出し、なつかしみ、神様に感謝するための記念碑としてあるのです。ですから、仏教のようなしきたりはありません。キリスト教のお墓は家族墓ではなく個人墓なのが特徴です。また、墓地は芝生で覆われていた方がよいということですが、これは日本の一般の霊園では難しいでしょう。
墓石に刻む墓碑銘には、故人の名前と生没年が入ります。仏教の戒名のようなものはありませんが、カトリックで洗礼を受けている場合は洗礼名を入れる場合もあります。故人が好きだった聖句(聖書の一節)を刻む例もありますね。

刻む文字の書体には規定なし、読みやすいものにしよう

ここまでは、墓石に刻む文字の内容について触れてきました。では、文字の形、つまり書体はどうでしょうか。
結論から言えば、書体には決まりはありません。よく使われるのは、楷書体、行書体、隷書体です。これらは長い歴史を持つ漢字の書体で、新聞や本をはじめ、街の看板やポスターからテレビ、インターネットに至るまで、さまざまな場所で目にすることができます。日本で一般的な学校教育を受けていれば、読みにくい書体ではありません。同じく伝統的な書体に草書体がありますが、これはかなり崩した文字になるので、きちんと読みこなすのは難しいですね。どのような書体にするか、石材店のカタログや実際の墓石を見て決めましょう。また、このような一般的な書体ではなく、文字を書き下ろしてもらえる場合もあります。別料金になる場合が多いですが、これも石材店に相談しましょう
墓石で使われる特別な書体としては、日蓮宗の「ひげ文字」があります。これは、日蓮宗の開祖である日蓮上人が創った独特の筆法です。漢字の「はらい」を長く左右に伸ばすのが特徴で、この「はらい」が伸びている様子が八の字ひげのように見えるので、この名前がつけられました。

また、漢字は現在使われている新字体ではなく、旧字体をつかうほうがよいとされています。浅→淺、増→增、曽→曾など、普段は意識しなくてもさまざまな漢字に旧字体があります。この機会に調べてみるのもいいでしょう。
名前にだけ使う異体字(「高」という字の上半分が違う「ハシゴ高」や、「ワタナベ」さんの「ナベ」の字が「邊」なのか「渡邉」なのか、など)にも注意が必要です。なにしろ石に刻んでしまうとやり直しができませんから、細心の注意を払いましょう。