手元供養品を考える

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79243fefbbc003f7122a727db6f0491d_s仏舎利、という言葉があります。仏教用語ですが、これは「お釈迦様のご遺骨、ご遺灰」を指します。奈良・法隆寺の五重塔などは本来この仏舎利を納めるために建立された建物です。舎利塔は、仏教を信仰していた国々にはそれぞれ数多くあります。仏教を信奉する国は日本や韓国、中国をはじめ、タイ、カンボジア、スリランカなど多数にわたり、寺院やそれに付属する舎利塔は数えきれないほどあります。……ここで「いくらなんでもお釈迦様のご遺骨がそんなにたくさんあるわけはないのでは……」と疑問に思う方もおられると思います。お釈迦様の入滅から200年後、仏教の守護者として知られるインドのアショーカ王がお釈迦様のご遺骨とご遺灰をごく細かい粒にまで分け、8万4000ヵ所の寺院に送りました。これが本来の仏舎利、真舎利と呼ばれるものです。さらにその後、真舎利を納めた舎利塔の前で供養した宝石を「仏舎利の代わり」として祀るようになりました。これを法舎利と呼びます。お釈迦様が入滅されたクシナガラから、さまざまな経緯を経て世界中に拡散していった真舎利や法舎利は、各地で信仰の拠り所になっています。鑑真和上や空海上人など、中国と日本の間を行き来した仏教者によって、多くの法舎利が日本にもたらされました。
余談になりますが、日本にも真舎利を納めたお寺があります。名古屋にある、覚王山日泰寺というお寺です。ここに納められている仏舎利が真舎利である、というのは伝説や言い伝えによるものではありません。1898年(明治30年)、イギリスの外交官が発掘した水晶の壺に刻まれていた古代文字から、その壺に納められていた人骨がお釈迦様のものである、とわかったのです。発見された真舎利は仏教国のタイに寄贈され、タイの国王から日本国民への贈り物として下賜されたのです。1901年(明治33年)、知らせを受けた日本の仏教諸派は真舎利を奉安するための宗派を超えた寺院を建立することを決めました。これが、覚王山日泰寺です。境内には真舎利を納めた奉安塔や本堂に加え、当時のチュラロンコン・タイ国王の銅像があります。各宗派が集まって建てられたため、各宗派の管長が三年交代で住職を勤めます。

さて、なぜ長々と仏舎利のお話しをしたかといいますと、今回のテーマである手元供養品とは言ってみれば仏舎利のようなものだと言えるからです。お墓やお仏壇は簡単に動かすことはできませんが、手元供養品は逆に普段身につけたり、日常生活の中で手元に置いておくもの。

手元供養品のトレンドとは

e1b81aede269b785b00e4528ef960bfa_s手元供養品にはさまざまな種類があります。近年需要も増えており、バリエーションも豊富になってきました。
もっとも手軽で人気があるのが、ご遺灰を納めるペンダントなどの装身具でしょう。ペンダントヘッドに空洞があり、そこにご遺灰を納めます。素材もプラチナ、ゴールド、ホワイトゴールド、ピンクゴールド、シルバー、チタン、ステンレスなど幅広く、またごく小さい誕生石を入れる場合もあります。ペンダントだけでなく、ブレスレットや指輪、ブローチなどにすることもできます。形状の自由が利くのはやはりペンダントで、円柱や角柱などストレートな形、サークル、トライアングル、スクエアなどの幾何学的な形、ハート、クローバー、クロスなどの意匠をこらしたものなどがあります。

装身具以外の手元供養品となると、まずはミニサイズの骨壷でしょうか。お墓に納めたご遺骨と別に、お仏壇に分骨してお祀りするのは以前から行われてきました。これを、現代の住宅に合わせたデザインでリファインしたのがミニ骨壷です。骨壷の素材にもさまざまなものがあります。木目の美しい銘木をつかった木製骨壷、落ち着いた風合いが楽しめる陶器製骨壷、透明感のある素材と現代的なデザインが特徴のガラス製骨壺、奇抜すぎず落ち着いた雰囲気を醸し出す金属製骨壷、高級感あふれるクリスタル製骨壷などです。

近年需要を伸ばしているのが、手元墓です。仏壇のように場所を取らず、しかしお墓らしさも保ちたいという要望に応えるため、和型三段墓の竿石をイメージしたフォルムのガラス製のちいさなお墓がラインナップされています。こちらにもご遺骨を納めるスペースがあるので、これも手元供養品の一種と言えるでしょう。

なぜ手元供養品が人気なのか?

8367ce3b8afe907e262daf67119e6104_s手元供養品は近年市場が拡大し、さまざまな新商品が生まれています。この動きを支えているのは、お墓そのものを維持することの困難さよりも、お仏壇を維持していくことの難しさではないでしょうか。旧世代から受け継がれてきたお墓やお仏壇は、現代の住宅環境や社会の仕組みに完全にマッチしているとは言いがたい状態にあります。改葬にせよ新たに購入するにせよお金と時間がかかるお墓に比べて、まず手を付けやすいのがお仏壇ではないでしょうか。また、古くからあるお仏壇はかなりのサイズ。「自宅のスペースを塞いじゃうから、けっこう困ってるのよね……」というご家庭も多いはず。これには、やはりある程度以上の年代の方々にとってはお墓やお仏壇をどれだけ整えられるかが、家の経済力や格式を示すことになる、という考え方があったからです。とはいえ、お墓や仏壇を相続し、その維持管理をし続ける現役世代にとってはそのような感覚がないのは事実。そこでまずお仏壇を……となったときに、まずモダンな仏壇、さらには手元供養品が視野に入ってくるのではないでしょうか。

マンションにマッチするデザインの仏壇、卓上サイズの仏壇などモダン仏壇も数多く商品化されています。しかし、仏壇が仏壇であり続ける以上、やはりお参りの形は従来通りのお線香を焚いて鈴を鳴らし、お数珠をかけてお祈りする形になってしまう。そのスタイルから変えよう、という発想から手元供養品を手にする方も増えているのです。お線香とお数珠を使うお参りは心の静まる素晴らしいものですが、しかし現代ではかえってその儀式のために故人の方との距離を遠く感じてしまう方もいます。それなら、ペンダントにして四六時中身近に感じていたい、という考え方もまた納得できるところではないでしょうか。また近年流行している樹木葬や海洋散骨などで残ったご遺骨・ご遺灰を遺族間で分配する場合にも、手元供養品は優れています。別々に暮らす兄弟それぞれが、個別にお墓を建てたりお仏壇を置いたりするのは現代の住環境からするとなかなか難しいもの。手元供養品で手軽に故人とのつながりを保ち続ける、というのも現代ならではの向き合い方かもしれません。

手元供養品を考える

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79243fefbbc003f7122a727db6f0491d_s仏舎利、という言葉があります。仏教用語ですが、これは「お釈迦様のご遺骨、ご遺灰」を指します。奈良・法隆寺の五重塔などは本来この仏舎利を納めるために建立された建物です。舎利塔は、仏教を信仰していた国々にはそれぞれ数多くあります。仏教を信奉する国は日本や韓国、中国をはじめ、タイ、カンボジア、スリランカなど多数にわたり、寺院やそれに付属する舎利塔は数えきれないほどあります。……ここで「いくらなんでもお釈迦様のご遺骨がそんなにたくさんあるわけはないのでは……」と疑問に思う方もおられると思います。お釈迦様の入滅から200年後、仏教の守護者として知られるインドのアショーカ王がお釈迦様のご遺骨とご遺灰をごく細かい粒にまで分け、8万4000ヵ所の寺院に送りました。これが本来の仏舎利、真舎利と呼ばれるものです。さらにその後、真舎利を納めた舎利塔の前で供養した宝石を「仏舎利の代わり」として祀るようになりました。これを法舎利と呼びます。お釈迦様が入滅されたクシナガラから、さまざまな経緯を経て世界中に拡散していった真舎利や法舎利は、各地で信仰の拠り所になっています。鑑真和上や空海上人など、中国と日本の間を行き来した仏教者によって、多くの法舎利が日本にもたらされました。
余談になりますが、日本にも真舎利を納めたお寺があります。名古屋にある、覚王山日泰寺というお寺です。ここに納められている仏舎利が真舎利である、というのは伝説や言い伝えによるものではありません。1898年(明治30年)、イギリスの外交官が発掘した水晶の壺に刻まれていた古代文字から、その壺に納められていた人骨がお釈迦様のものである、とわかったのです。発見された真舎利は仏教国のタイに寄贈され、タイの国王から日本国民への贈り物として下賜されたのです。1901年(明治33年)、知らせを受けた日本の仏教諸派は真舎利を奉安するための宗派を超えた寺院を建立することを決めました。これが、覚王山日泰寺です。境内には真舎利を納めた奉安塔や本堂に加え、当時のチュラロンコン・タイ国王の銅像があります。各宗派が集まって建てられたため、各宗派の管長が三年交代で住職を勤めます。

さて、なぜ長々と仏舎利のお話しをしたかといいますと、今回のテーマである手元供養品とは言ってみれば仏舎利のようなものだと言えるからです。お墓やお仏壇は簡単に動かすことはできませんが、手元供養品は逆に普段身につけたり、日常生活の中で手元に置いておくもの。

手元供養品のトレンドとは

e1b81aede269b785b00e4528ef960bfa_s手元供養品にはさまざまな種類があります。近年需要も増えており、バリエーションも豊富になってきました。
もっとも手軽で人気があるのが、ご遺灰を納めるペンダントなどの装身具でしょう。ペンダントヘッドに空洞があり、そこにご遺灰を納めます。素材もプラチナ、ゴールド、ホワイトゴールド、ピンクゴールド、シルバー、チタン、ステンレスなど幅広く、またごく小さい誕生石を入れる場合もあります。ペンダントだけでなく、ブレスレットや指輪、ブローチなどにすることもできます。形状の自由が利くのはやはりペンダントで、円柱や角柱などストレートな形、サークル、トライアングル、スクエアなどの幾何学的な形、ハート、クローバー、クロスなどの意匠をこらしたものなどがあります。

装身具以外の手元供養品となると、まずはミニサイズの骨壷でしょうか。お墓に納めたご遺骨と別に、お仏壇に分骨してお祀りするのは以前から行われてきました。これを、現代の住宅に合わせたデザインでリファインしたのがミニ骨壷です。骨壷の素材にもさまざまなものがあります。木目の美しい銘木をつかった木製骨壷、落ち着いた風合いが楽しめる陶器製骨壷、透明感のある素材と現代的なデザインが特徴のガラス製骨壺、奇抜すぎず落ち着いた雰囲気を醸し出す金属製骨壷、高級感あふれるクリスタル製骨壷などです。

近年需要を伸ばしているのが、手元墓です。仏壇のように場所を取らず、しかしお墓らしさも保ちたいという要望に応えるため、和型三段墓の竿石をイメージしたフォルムのガラス製のちいさなお墓がラインナップされています。こちらにもご遺骨を納めるスペースがあるので、これも手元供養品の一種と言えるでしょう。

なぜ手元供養品が人気なのか?

8367ce3b8afe907e262daf67119e6104_s手元供養品は近年市場が拡大し、さまざまな新商品が生まれています。この動きを支えているのは、お墓そのものを維持することの困難さよりも、お仏壇を維持していくことの難しさではないでしょうか。旧世代から受け継がれてきたお墓やお仏壇は、現代の住宅環境や社会の仕組みに完全にマッチしているとは言いがたい状態にあります。改葬にせよ新たに購入するにせよお金と時間がかかるお墓に比べて、まず手を付けやすいのがお仏壇ではないでしょうか。また、古くからあるお仏壇はかなりのサイズ。「自宅のスペースを塞いじゃうから、けっこう困ってるのよね……」というご家庭も多いはず。これには、やはりある程度以上の年代の方々にとってはお墓やお仏壇をどれだけ整えられるかが、家の経済力や格式を示すことになる、という考え方があったからです。とはいえ、お墓や仏壇を相続し、その維持管理をし続ける現役世代にとってはそのような感覚がないのは事実。そこでまずお仏壇を……となったときに、まずモダンな仏壇、さらには手元供養品が視野に入ってくるのではないでしょうか。

マンションにマッチするデザインの仏壇、卓上サイズの仏壇などモダン仏壇も数多く商品化されています。しかし、仏壇が仏壇であり続ける以上、やはりお参りの形は従来通りのお線香を焚いて鈴を鳴らし、お数珠をかけてお祈りする形になってしまう。そのスタイルから変えよう、という発想から手元供養品を手にする方も増えているのです。お線香とお数珠を使うお参りは心の静まる素晴らしいものですが、しかし現代ではかえってその儀式のために故人の方との距離を遠く感じてしまう方もいます。それなら、ペンダントにして四六時中身近に感じていたい、という考え方もまた納得できるところではないでしょうか。また近年流行している樹木葬や海洋散骨などで残ったご遺骨・ご遺灰を遺族間で分配する場合にも、手元供養品は優れています。別々に暮らす兄弟それぞれが、個別にお墓を建てたりお仏壇を置いたりするのは現代の住環境からするとなかなか難しいもの。手元供養品で手軽に故人とのつながりを保ち続ける、というのも現代ならではの向き合い方かもしれません。